経理のAI活用と内部統制|IT統制ガイダンスの記載と監査法人に説明する記録
AIの出力を人が承認してから確定する運用と、AIの出力がそのまま確定する運用で、監査法人に示す記録が変わります。

目次
経済産業省の「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」(令和6年12月25日)は、業務プロセスでAIを使う場合、出力の正確性・妥当性のチェックと承認をプロセスに組み込むことが必要であるとしています。
監査法人への説明では、AIの出力を人が承認してから確定する運用か、AIの出力がそのまま確定する運用かを業務ごとに示し、それぞれに必要な記録を残します。
IT統制ガイダンスにおけるAIの記載
経理のAI活用と内部統制とは、仕訳案の作成や経費精算の判定などにAIを使う経理業務について、AIの出力を人が承認してから確定する運用かAIの出力がそのまま確定する運用かを業務ごとに区分し、確認の範囲、照合の結果、指示文や設定の変更管理、AI用アカウントの権限を記録として残して、監査法人や内部監査に説明できる状態にすることを指します。
経済産業省は令和6年12月25日に「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」(以下「追補版」)を改訂しました。追補版は第Ⅱ章にコラム「AI導入での留意点」を置いています。AI経理の全体像と技術ごとの用途はAI経理の記事にまとめました。
このコラムは、業務プロセスでAIを利用する場合、出力がブラックボックスで生成されるというAIの特性を踏まえ、出力の正確性・妥当性などのチェック・承認をプロセスに組み込むことが必要であるとしています。例として挙げているのは、保険金申請のスクリーニングで、定型的に補償を適用できる申請と人の判断が必要な申請をAIで仕分けるケースです。
追補版は付録2の「IT基盤質問書(例)」にも、財務会計に関連する周辺ツールの管理状況の欄として「AI(人工知能)の利用状況」を設けています。記載例は、天候予想から売上予測を行い、在庫発注データを生成するというものです。経営者が評価範囲を決める段階で、AIの利用状況を把握する項目として置かれています。
日本公認会計士協会は2024年8月13日に、テクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」を公表しました。同協会はこの研究文書の目的を、監査で利用されるAIの理解を更新し、活用方法と課題を整理することとしています。
AIの出力の確定方法による区分
監査法人に説明するときは、業務ごとに、AIの出力を人が承認してから確定する運用なのか、AIの出力がそのまま確定する運用なのかを最初に示します。区分によって、内部統制の中心と残す記録が変わるためです。この2区分は編集部の整理です。
| 項目 | 人が承認してから確定する運用 | AIの出力がそのまま確定する運用 |
|---|---|---|
| 運用の例 | AIが仕訳案を作り、担当者が確かめて承認する | 一定の条件を満たす経費精算をAIが承認する |
| 中心となる統制 | 担当者の確認 | AIの処理 |
| 監査で確かめられる点 | 担当者が何をどの範囲で確認したか、AIが作った一覧が元データと一致しているか | 判定の根拠、指示文・モデル・設定の変更管理、AI用アカウントの権限 |
| 残す記録 | 確認範囲・観点・修正件数、一覧と元データの件数・合計の照合結果 | 判定根拠のログ、変更の申請と承認、抜き取り再判定の結果 |
人が承認する運用で残す記録
確認した範囲と観点
担当者が「最後は見ている」だけでは、何をどの細かさで確認したかを後から示せません。月ごとに、確認した件数、確認の観点、修正した件数を1行で残しておくと、監査法人への説明の材料になります。
AIが作った一覧と元データの照合
AIが作った一覧を丁寧に見ても、一覧から漏れた取引には気づけません。カード明細が415件あるのに仕訳案が412件しかなければ、差の3件は件数を照合してはじめて分かります(数値は架空)。照合する項目は件数と合計金額です。
指示文と対応表の版
仕訳案を作るときの指示文や勘定科目の対応表を変えると、同じ明細から違う仕訳案が出ます。変更した日、内容、承認者を残しておきます。
AIの出力がそのまま確定する運用の準備
追補版の付録1は、ITで自動化された内部統制について、関連するIT全般統制が有効に機能していると判断できる場合は、IT業務処理統制ごとに1つのアプリケーションを検証すればよいという考え方です。手作業による統制では、1日に多数回行う統制のサンプル件数を25件とする例を示し、25件に逸脱がなければ、9%以上の逸脱がないことを信頼水準90%で説明できるとしています。
自動化された統制の評価作業が少なくて済むのは、一度組み込んだ統制が変更やエラーがない限り一貫して機能するという性質があるためです。生成AIは同じ入力に同じ出力を返すとは限らず、提供元がモデルを更新することもあります。追補版には、AIの判定を自動化された統制として評価する方法の記載はありません。AIの出力がそのまま確定する運用を始める場合は、評価の方法を計画の段階で監査法人と協議してください。
指示文・モデル・設定の変更管理
追補版は変更管理の指針で、自動仕訳の対象データや使用する勘定科目を変更する際は、変更前の承認と変更後のテストを実施するとしています。AIへの指示文、参照させる勘定科目の対応表、利用するモデルの切り替えも同じ手続の対象に含めておくと、監査法人に説明しやすくなります。
AIが使うアカウントの権限
追補版の統制目標の例は、職務権限に対応したアクセス範囲とアクセス権限のレベルを決めること、特権IDは担当者と利用期間を限定することの2点です。AI用のアカウントを人のアカウントと分けると、ログ上でAIの操作と人の操作を区別できます。
AI事業者ガイドラインが利用者に求める事項
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)は、第5部でAI利用者に求める事項を挙げた資料です。「個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策」(U-4)は、AIシステム・サービスへ個人情報を不適切に入力しないよう注意を払うこと、「セキュリティ対策の実施」(U-5)は、AI提供者によるセキュリティ上の留意点を遵守し、機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。「提供された文書の活用と規約の遵守」(U-7)では、AI提供者が定めたサービス規約を遵守することが求められます。
経理でAIを使う場合、入力するデータに含まれるのは取引先名、従業員名、公表前の決算数値です。監査法人への説明資料には、使っているサービスの契約形態(会社契約か個人契約か)、入力データが学習に使われない設定かどうか、確認した規約の日付を書いておくと、同ガイドラインの事項に沿った運用であることを示せます。月次決算の増減分析で生成AIに渡すデータの範囲と置き換えの方法は、月次決算の増減分析に生成AIを使う手順の記事で整理しました。
生成AIサービスの委託先管理
追補版のコラム「外部委託」は、クラウドサービスの普及で財務報告に関わるシステムの外部委託が増えていることを踏まえ、委託先のモニタリング手段として内部統制の保証報告書(SOCレポート)を挙げています。財務報告に係る内部統制の評価では基本的にSOC1レポートを利用し、必要に応じてSOC2レポートで委託先のセキュリティ等の内部統制を理解・評価するという整理です。
生成AIサービスに仕訳案の作成などを任せる場合は、契約しているサービスがどの保証報告書を取得しているか、利用中のサービスが報告書の対象範囲に含まれるかを確かめます。担当者が個人で契約したプランは、会社契約を前提とした報告書の対象に通常は含まれません。
会計ソフトの承認フローと権限の設定
AIの出力を人が承認してから確定する運用は、会計ソフトの設定で実装できる場合があります。2026年10月20日時点の公式ヘルプで確認できる例を挙げます。
freee会計の「仕訳承認フロー」を有効にすると、自動登録ルール(「自動で経理」の自動登録)で作成された仕訳や他社API等から連携して作成された仕訳が「申請中」になり、承認者が承認するまで帳簿に反映されません(ヘルプ「メンバーの記帳内容を承認制にする(仕訳承認フロー)」更新日2026年7月27日)。対象プランは法人のアドバンス・エンタープライズ(旧プロフェッショナル・エンタープライズ)です。カスタム権限では、自動登録ルールの参照・登録・更新・削除を個別に設定できるため、ルールを作成・変更できるメンバーを限定できます(ヘルプ「メンバーが利用できる機能を編集する(カスタム権限)」更新日2026年4月16日)。
マネーフォワード クラウド会計については、公式FAQ(更新日2026年7月6日)が、仕訳承認機能、業務分担に合わせた権限設定、仕訳の変更履歴確認を、通常のクラウド会計にはなくクラウド会計Plusにある機能として挙げています。クラウド会計で人の承認を置く場合は、自動仕訳ルールの「自動登録」にチェックを入れず、仕訳候補を承認者が確認してから登録する運用です。両社の設定項目とヘルプのページ名は、freee会計とマネーフォワード クラウド会計のAI機能の記事にまとめました。
| 設定項目 | freee会計 | マネーフォワード クラウド会計 |
|---|---|---|
| AIが作成した仕訳の承認 | 仕訳承認フローで「申請中」にする | クラウド会計Plusの仕訳承認機能。クラウド会計では運用で対応 |
| ルールを変更できる人の限定 | カスタム権限で自動登録ルールの登録・更新・削除を設定 | クラウド会計Plusの権限設定(入力のみ・承認のみなど)。クラウド会計では運用で対応 |
| AIが作成した仕訳の識別 | 承認ステータス「申請中」、ファイル自動記帳による取引の根拠 | 仕訳帳の種類「AI-OCR」、自動仕訳ルール適用のアイコン |
監査法人との協議に使うAI利用一覧
AIを使う業務ごとに、区分と記録を1行で並べた一覧を作っておくと、そのまま協議の資料に使えます。次の表は記入例です。
| 業務 | 区分 | AIのアカウントと権限 | 変更管理の対象 | 確認の記録 | 照合 |
|---|---|---|---|---|---|
| カード明細の仕訳案 | 人が承認 | AI専用、起票のみ | 指示文、科目対応表 | 全件確認、修正件数 | 明細と仕訳案の件数・合計 |
| 入金消込の候補 | 人が承認 | AI専用、消込の確定は不可 | 照合ルール | 差異の処理記録 | 入金明細と売掛金残高 |
| 少額交通費の承認 | AIが確定 | AI専用、承認権限あり | 判定条件、指示文 | 月次の抜き取り再判定 | 承認件数と精算件数 |
| 会議メモの要約 | 財務報告に影響なし | 対象外 | 対象外 | 不要 | 不要 |

よくある質問
経理でAIを使っていることを監査法人に伝える必要がありますか。
財務諸表の作成に関わる業務でAIを使っている場合は、業務ごとの利用状況を監査法人に伝え、評価範囲に含めるかを協議してください。追補版のIT基盤質問書(例)にも、AIの利用状況を記載する欄があります。
担当者が全件確認していれば、AIについての記録は不要ですか。
担当者の確認が内部統制の中心であっても、確認した範囲と修正件数、AIが作った一覧と元データの照合結果は残してください。確認が承認操作だけになっていないことを示す材料になります。
内部監査ではAIの利用をどう扱いますか。
内部監査部門は、AI利用一覧をもとに、確認の記録や変更管理の記録が運用どおりに残っているかを確かめます。改善が必要な事項が見つかった場合、改善を行うのはAIを利用している部署です。
参考資料
- 経済産業省「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」令和6年12月25日(第Ⅱ章コラム「AI導入での留意点」、第Ⅲ章、第Ⅳ章、付録1、付録2) (最終確認 2026年10月20日)
- 日本公認会計士協会「テクノロジー委員会研究文書第11号『監査におけるAIの利用に関する研究文書』の公表について」2024年8月13日 (最終確認 2026年10月20日)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編(概要)令和8年3月31日(第5部 AI利用者に関する事項 U-4、U-5、U-7) (最終確認 2026年10月20日)
- メンバーの記帳内容を承認制にする(仕訳承認フロー)(freee ヘルプセンター、更新日2026年7月27日) (最終確認 2026年10月20日)
- メンバーが利用できる機能を編集する(カスタム権限)(freee ヘルプセンター、更新日2026年4月16日) (最終確認 2026年10月20日)
- 「マネーフォワード クラウド会計」と「マネーフォワード クラウド会計Plus」の違いを教えてください。(マネーフォワード クラウド会計Plusサポート、更新日2026年7月6日) (最終確認 2026年10月20日)
本記事は2026年10月20日時点で確認できた法令・資料に基づいています。個別の取引への当てはめは、顧問税理士や監査法人と確認してください。
AIを使う経理業務のRCM・業務記述書 記載例
AI-OCR、自動仕訳、AI入金消込、生成AI、AIエージェントを使う経理業務について、リスクとコントロール、業務記述書の文例、監査法人への説明の文例をまとめた記載例です。



